歌 謡

文化

ここでは、流行歌・民謡・童謡・俗謡などの総称を意味する。具体的には、いわゆるご当地ソングの類となるが、軍都を反映した歌詞が盛り込まれているものを紹介する。

○横須賀市歌 北原白秋作歌 山田耕作作曲
 (昭和12年市制30周年記念制定)
一 旭の輝くところ 儼たり 深き潮 艨艟城とうかび 清明富士は映れり 勢へ 我が都市 横須賀 横須賀 大を為さむ
二 金鉄の貫くところ 鏘たり 響け軍都 工廠光赤く 營々人は挙れり 勢へ 我が都市 横須賀 横須賀 大を為さむ
三 聖恩の普きところ 儼たり 見よや東亜 天業ここに高く 皇国護り康し 勢へ 我が都市 横須賀 横須賀 大を為さむ 

○横須賀開港五十年祝歌 高野辰之作歌 岡野貞一作曲
 (開港50年とは、横須賀製鉄所の鍬入式から50年後の大正4年のことである。横須賀海軍工廠や横須賀市で盛大に式典が催されており、これに合わせて制作されたものと推測される。)
一 東京湾の門戸なす 我が横須賀の港こそ 帝国一の要塞地 東洋無比の大軍港
二 浦の苫屋に網干しゝ 磯はいつしか大都会 槌の音高き工廠に 巨艦建造絶間なし
三 開港こゝに五十年 今日こそ紀念の祝なる いざや唱えん諸声に 我が横須賀の万代を

○横須賀小唄
一、来やれ横須賀いくさの港、日本男児の血が躍る 血が躍る
一、田戸の浦曲の夕なぎ小なぎ、ひじき採る娘が ちらほらと ちらほらと
一、お前の心とマストの旗は、風が吹く方に すぐなびく すぐなびく
一、軍艦三笠は皇国のたから、見なきゃ 身の恥 人の恥 人の恥
一、情け小海の朝霧小霧、せめて出艦の日は晴れろ 日は晴れろ
一、さんさ猿島時雨にくれりゃ、便りない身が 気にかゝる 気にかゝる
一、見たか衣笠三浦の城址、花は昔の意気に咲く 意気に咲く
一、お前の心と角なし蠑螺、見かけ悪いが 実がある 実がある
一、横須賀芸者は岩間の藻草、水にゃ咲けども 根が強い 根が強い
一、さあさ唄えよ横須賀小唄 唄がはづめば 気もはづむ 気もはづむ

○横須賀行進曲
一、青い灯青い灯浪間に揺れりゃ 艦は港に わしゃ陸に 海の横須賀恋の街
一、行こうか安浦帰ろか下宿 にっこり笑うた唇を 何で此のまゝ 忘りゃろか
一、バーの灯ちらほら巡羅の灯り つらい別れの 夜も更ける まゝお酒を飲み明かそ
一、錨まく音ラッパの響き 船は出て行く静ゝと 今日を名残の雨が降る
一、赤い灯青い灯街にともりゃ 残る此身も 悲しかろ 海の横須賀恋の街

○軍港小唄 作詞 海野啓一  作曲 万城目正
一、春の横須賀霞に明けて 桜吹雪の散る散る港 艦の居る日は風さえそよぐ 靡くマストの軍艦旗
二、寄する男波の麗女の島に 暮れりゃ鳴く鳴く波間の千鳥 街の青柳夜風に濡れて 月も囁く呉泊まり
三、心残して向後の岬を 艦は出て行く佐世保の港 雁の便りを留守居の窓に 再度の上陸いつじゃやら
四、雪の舞鶴夜寒に更けて 待つ身辛さの情けの炬燵 沖は寒かろ今宵も吹雪 夢も凍るか波の上
五、軍港良いとこ御国の護り 海の勇士の安らい所 積もる辛苦もさらりと捨てて 耳も澄むよな子守唄

○軍港節
一、諏訪の山から横須賀見れば 煙る中から槌の音 戦艦陸奥もこゝから産んだ 勢と力と勇気と意氣の 工廠魂へドント来い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、軍艦三笠は昔のまゝよ ゆるがぬ姿に恋が増す 颶風来ようが高波捲こが 堅い心に鍛えた腕の 胸へあたってドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、花は衣笠月米ケ濱 雪によいのが四畳半 八重の汐路の風にくらしい 大事なあなたをこんなに黒く 男らしいぞドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、艦が来る日は私の胸に すぐと知れます信号旗 それ程知れるに行くのは不意よ ならばマストへ虹橋かけて 逢いに行きたいドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、海軍工廠の船台見たか 昔は港は鯛の山 船は帆かけて田戸浦さして 早く逢はうに待たれつ待ちつ 顔見りゃ飛びつけドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、船が来たのに名は猿島と 聞けば出艦が氣にかゝる 夕べ港に灯が一杯に 久し振りゆゑ女はもろい 涙はらってドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、水上飛行機浪から飛んで 真一文字にまっしぐら 水平線から雲湧き出よが 響くプロペラ調子ははづむ 翼めがけてドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い
一、姿よいよりただ活發な 軍港通ひの方が好い お金なんぞは塵より軽い 御国へさゝげる兩手の力 鐡の腕節ドント來い
  ドントぶつかりゃ波の花 ドント來い ドント來い ドンドと來い

○三浦郡回遊唱歌
1.相模の国の東北(うしとら)の 半島なれと此地(ここ)そこれ 東京湾の要害と 世には名高き我郡は
2.上手(うわて)の浦を北にして 南の方(かた)に下手浦(したてうら) 西の西浦さし加え 三浦とこそは称(とな)えつれ
3.もとの石高三万余 七十二村の分れ道 迷わで辿る大御代(おおみよ)の 光り隈なき世となりて
4.横須賀浦賀三崎たる 三つの町と村の数 十二と限り自治制は いとも円(まど)かに行(おこ)わる
5.そご中にても横須賀は 我海軍の鎮守府の 設け置かるる所にて 郡中一の都会なり
6.慶応元年丑の春 始めて建てし造船所 三千余人の職工が よるひるわざを励みつつ
7.幾千頓の軍艦も 造り出(いだ)せる工(たく)みには 始め伝えし外国(とっくに)の 人さへ舌を巻くならん
8.三つの船渠(ドック)に出(で)つ入(いり)つ する外(ほか)に尚を数多き鎮守府付の軍艦は 広き港を狭き迄
9.錨下(いかりおろ)せど鑵(かま)の湯は 絶えず沁(たぎ)れと焚き立つる 空の煙をにらみつつ 勇気あふるる軍人(いくさびと)
10.「ア」という命のあらんには 「サ」と打ち出てん勇ましさ 東洋一の軍港と たたえぬものやなかるなん
11.水雷団は長浦に 長くも御代を逸見の里 海兵団と相須(あいま)ちて 御国に重きをなすぞかし
12.日ごとに数を増す軒は 崖の岨(そば)又山の上 景色を占めて建ちそえる 竃(かまど)と共に賑わいぬ
13.機関学校裁判所 郡役所また測候所 官衙(やくしょ)もふえて遠からず 市ともなりなんさまぞみゆ
14.横須賀町と境さへ 分ちかねたる軒続き 賑わい続く県道を 進む南は豊島村
15.村は昔しを忍ぶ草 草の庵は見えずして 町のすがたと改まる 御代豊かなる米が浜
16.千歳の末の木の間より 見ゆる浜辺にとびかいの 鴎のかげを文字のごと 画(えが)きし山は安房上総
17.要塞砲兵司令部や 連隊営所を右に見て 南に進む海岸の あかぬながめを浜伝い
18.行くてうようよ吹き返す 袖の浦賀の初東風(はつこち)に 大津の梅はここかしこ 綻(ほころび)ひろめて匂うなり
19.要塞射撃学校の 東南(たつみ)の方(かた)に走水 名にも昔しの忍ばれて 香(か)も橘を惜しみつつ
20.仰ぐ彼方は観音岬(かんのんざき) 富津の崎と相対(あいむか)い 距離(へだだり)僅か二里余り 此処ぞ御国の要所なる
21.堅固無双(けんごぶそう)の砲台は 「ジブラルター」も何のその 打ち試したる大砲の 音にも起す日本魂(やまとだま)
22.浦賀海関蹟(かいかんあと)あれて 空しき苔に春雨の ふりしそのかみ文明の 種蒔き初めし児桜(ちごさくら)
23.今頃花の盛りなる 愛宕の山の木の間(このま)より 扇の港眞帆片帆(まほかたほ) 見ゆる出入の船のかけ
24.人の心はいにしえの 質直(すなお)のままを失はで 商業上の信用に 重きを置けり今も猶ほ
25.冨めりと見ゆる町並の 西のはずれに館浦 谷戸と二箇所の船渠(ドック)には 世界の船も集い来て
26.帰れはあとに引き続き 久里浜村の大浜は ペルリ上陸せし地とて 歴史の上に名も高き
27.衣笠城は其西に 七百年の面影を 残せるあとに松風の 空しく吹くもあわれなり
28.北下浦の五明山 右に仰ぎて眞砂路(まさごじ)を 行くや南の下浦の 春の景色ぞ長閑なる
29.波のまにまに漁舟(いさりぶね) かすめる中に漂える かけ面白し画かんと 探れる腰の剣崎(つるぎざき)
30.工(たく)み極めし灯台の  もと暗からず三崎道 道の果には城ケ島 入江隔てて控えたり
31.海士か漁火空に照る 星の数にもまがう迄 実(げ)にや郡中第一の 漁場(りょうば)とこそは見えにけれ
32.荒井城址に帝国の 大学臨海実験所 南は深き油壺 北は小網代湾に俯し
33.仰げば空よ郭公(ほととぎす) 初声の村の若葉より 緑色増す早苗田の 稲も長井の浜庇
34.垂るる五月雨それよりも 数多捕れたる大漁に しばしが程は憩わんと 吸うや煙草の名産地
35.武山村の武山は 武相総房伊豆駿河 六国一と目に見晴らして 下(お)り来る浜に蛍飛ぶ
36.中西浦のすずしさは 大楠山の山おろし 吹くか吹かぬか白波の よする渚に集う子等
37.拾う袂に嬉しさを 包みあませる貝殻を 芹の誠にかえばやと 仰ぐ葉山の御用邸
38.相模の海は広庭の 池のすがたにさも似たる 向いの岸にさし覗く 富士の山かげ涼しげに
39.花のながめや涼み舟 月の夕(ゆうべ)や雪の朝 四季見そなわずとりどりの 景気もいろを一寸鏡(ますかがみ)
40.移り来たれる都人 みやび造りの別荘は いと住よげに此処彼処 葉山の里や田越村(たごしむら)
41.旗立山のもみ葉を 染むる田越(たごえ)の村時雨 袖ぬらしつつ六代の 墓をとぶらう人や誰れ
42.逗子停車場(ステーション)待つ間なく 右に横須賀左には 鎌倉行きの汽車あれど 踏み切り越えにて浦郷(うらのごう)
43.雪を見ぬてう夏島は 冬のかげさえ寒からず 波も静かに船越の 海軍兵器製造所
44.これより東千余丈(せんじょうよ) 高根を超えて空高く こがす煙は問はで知る 横須賀軍港万々歳
明治34年5月19日発行:文華堂

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