郵便局の記念スタンプ

観 光

現在、郵便局の記念スタンプには、特印(特殊通信日付印)、小型印(小型記念通信日付印)、風景印(風景入通信日付印)、初日印(初日用通信日付印)の4種類が存在する。いずれも正規の消印であり郵便局名と日付が表記される。 また、通常の消印と異なり押印をしてもらうためには、郵便局郵便窓口等で希望をする必要がある。
戦前、観光目的で使用されてのは、特印と風景印である。
特殊通信日付印とは、記念・特殊切手の発行時や全国的な記念行事などの際に使用される消印。
風景入通信日付印とは、観光地を紹介するために用意される記念の消印であり、配備される郵便局周辺の名勝史跡等を図案化したものである。
押印の方法には、郵便物を差し出す際に押印してもらう「引受押印」と、収集目的で切手を貼ったハガキ等に押印してもらう「記念押印」の2種類がある。
当時の官報には「料金ヲ完納シタル書状(無封ノ書状ヲ除ク)及郵便絵葉書ノ引受ニ使用ス但シ其ノ希望ヲ以テ郵便局所窓口ニ差出シタルモノニ限ル 料金ヲ完納シタル郵便絵葉書並記念ノ目的ヲ以テ一銭五厘以上ノ郵便切手ヲ貼付シタル物件ニ対シ消印ノ需ニ應ス」と記載されている。

*風景印の制度は、昭和6年7月7日の逓信省告示第1400号によって開始されたもので、 使用開始は、同年7月10日の静岡県富士山郵便局と山梨県富士山北郵便局が日本初である。
因みに同告示では、7月15日使用開始として、横須賀、日光、江の島、伊香保、筑波山、上高地、六甲山、温泉、御嶽山、坊中、洞川、及び8月1日使用開始として阿蘇山、大峰山の各郵便局の風景印も告示されている。

横須賀局の風景印
昭和6年7月15日に使用が開始された横須賀郵便局の風景印である。
日本初ではないが、ほぼ同時期に始まったもので、それだけ軍港を観光として活用しようという意欲が感じられる。 デザインは、錨と鎖を外周に配し、メインモチーフは記念艦三笠の艦影を使った、いかにも軍港横須賀にふさわしい図案である。
戦艦三笠は、ワシントン軍縮条約によって廃艦が決まっていたが、保存運動によって大正15年11月12日に記念艦として横須賀で保存、公開されており、当時も横須賀の重要な観光名所であったことがうかがえる。

海と空の博覧会の記念スタンプ
「海と空の博覧会」とは、日本海海戦25周年記念として開催されたもので、昭和5年3月20日から5月31日まで、上野公園と横須賀市の記念艦三笠周辺の2か所を会場として行われた。
第二会場である横須賀会場では、主に海軍資料と県内特産品紹介であったが、追浜に誕生した海軍航空隊や航空母艦の展示が目を引いた。 関東大震災から7年後の復興を象徴する一大イベントでもあった。
本スタンプは期間中、会場内に派出した下谷郵便局と横須賀郵便局の臨時出張所で押印した。
図案は、Z旗を掲げた戦艦三笠の上空には複葉戦闘機が飛ぶ。文字は、「記念 海と空の博覧会 東京 昭和5.3.20−5.31」である。

観艦式の記念スタンプ
昭和2年10月30日に横浜港外で挙行された海軍特別大演習観艦式の記念として製作された記念スタンプ。
当日に横浜市内の一等・二等郵便局、横須賀及び川崎郵便局において料金完納の有封書状か絵葉書をもって希望した場合に押印した。
図案は、中央に御召艦である陸奥と軍艦旗を描くとともに周りに飛行艇と潜水艦を配したことで観艦式を表し、季節から周りを菊花で囲み、更に輪郭を錨鎖としている。文字は、「昭和二年特別大演習観艦式紀念」、「横濱 十月三十日」である。

観艦式の記念スタンプ
昭和8年8月25日に挙行された海軍特別大演習観艦式の記念として製作された記念スタンプ。 横浜港に160有余の艦船が参加する大観艦式であった。
中心にお召し艦であった比叡の艦影を描き、背後に式に参列する艦船の遠景、そして海軍水上機を配したデザインである。
この消印は、8月25日当日に横浜市内の一等・二等郵便局、横須賀郵便局、川崎郵便局、第一艦隊郵便局の窓口に差し出したもの(引受押印)や1銭5厘の以上の切手を貼ったハガキなどに押印(記念押印)された。

(参考)観艦式の記念スタンプ(横浜市)
上記と同様、昭和8年8月25日に挙行された海軍特別大演習観艦式の記念として製作された記念スタンプであるが、こちらは郵便局ではなく、横浜市が製作したものである。
8月25日の観艦式当日に、市内郵便局で、拝観所附近では、山手または浦島の出張所で押印された。
水平線に立ち上がる入道雲を背景にして、大小数多くの艦艇が勢ぞろいし、上空には海軍機の編隊が飛行するという臨場感あふれる図案である。

進水式の記念スタンプ「大鯨」
昭和8年11月15日に行われた軍艦大鯨の進水式を記念した記念スタンプである。
「大鯨」とは、ロンドン軍縮条約により空母の保有を制限されたため、潜水母艦として建造されたが、空母への改装を予定された艦であった。 横須賀海軍工廠で建造され、昭和9年3月31日に竣工したが、不備が多く、第1潜水戦隊旗艦として艦隊に編入されたのは、昭和13年9月である。 その後、昭和16年12月20日から予定通り横須賀海軍工廠で航空母艦への改装に着手した。しかし、昭和17年年4月18日のドーリットル空襲による爆撃などによって、工事は大幅に遅れ、昭和17年11月に完了した。 改装後は、空母「龍鳳」として太平洋戦争に従事したが、最期は呉軍港で浮砲台として係留され終戦を迎え、昭和21年に解体され生涯を終えた。

進水式の記念スタンプ「鈴谷」
昭和9年11月20日、天皇陛下のご臨席のもと横須賀海軍工廠にて行われた軍艦鈴谷の進水式を記念したスタンプである。 式当日から22日まで横須賀郵便局において押印された。
「鈴谷」とは、二等巡洋艦最上型の3番艦で改装後重巡洋艦となった。竣工は昭和12年10月31日。 数々の海戦に参加したが、昭和19年10月25日サマール島沖海戦にて米艦載機の攻撃より沈没した。

東郷元帥遺髪斎納式の記念スタンプ
東郷元帥の御遺族から元帥の御遺髪が贈られたため、記念艦三笠で保存することになり、昭和11年5月26日に艦内で斎納式が行われた。御遺髪は永久に保存するため真空のガラス箱に納められていた。
横須賀郵便局では、その記念に小型記念スタンプを作成し、5月26日から30日まで、斎納式場内の臨時出張所にて押印した。 図案は、遺髪塔と三笠艦を描いている。文字は、「東郷元帥遺髪斎納式記念 11.5.26 横須賀」とある。

<参考:一般の風景印>

川ア大師の御開帳記念スタンプ
川ア大師で知られる平間寺は、弘法大師一千百年大遠忌にあわせ御開帳を行うことになり、参詣者への記念として川崎局、大師河原局、境内臨時出張所の3カ所では記念スタンプを取り扱うこととなった。
期間は、御開帳の昭和9年4月11日から5月10日の一か月。
図案は、川崎大師へ参る参詣人の姿と川崎を象徴する工場を併せ描いている。中央には日付があるが「9.4.11」とある。

芦ノ湖の風景印
昭和7年2月11日から使用が開始された箱根芦ノ湖の風景印である。
図案は、箱根の山懐に佇む湖畔の温泉街と曽我兄弟と虎御前の墓と言われている五輪塔が抒情的に描かれている。 起ち上る湯気が温泉地の情感を感じさせてくれる。

大山の風景印
昭和10年9月1日から大山郵便局で使用が開始された風景印である。
図案は、霊峰「大山」を背景にした阿夫利神社の社殿と鳥居、そして別名雨乞いの滝とも言われる「二重滝」をイラストチックに描いたモダンなものである。

吉濱の風景印
湯河原町の吉浜郵便局で昭和11年1月11日から使用が開始された風景印である。
図案は、吉浜の温泉場と海岸から望む初島と噴煙あげる大島の島影、そして名産である蜜柑を描いている。

競馬倶楽部臨時競馬会の記念スタンプ
横浜競馬場(根岸競馬場)で開催された競馬倶楽部臨時競馬会(昭和11年1月11日〜19日)を記念して作成された記念スタンプ。横浜長者町郵便局の競馬場内臨時出張所において期間内に押印された。 図案は、疾走する競走馬と蹄鉄、背景に東京湾に浮かぶ船舶を描いている。

西浦の風景印
西浦郵便局で昭和11年4月11日から使用開始された風景印。図案改正により西浦海岸の風景に変更されたもので、現在でも神奈川の景勝50選や横須賀風物100選に選ばれている名所である「秋谷の立石と梵天の鼻の松」が描かれている。

根岸競馬の記念スタンプ
根岸競馬場で、昭和11年5月9、10、15、16、17、22、23、24日の8日間開催された競馬会を記念して作成された小形記念スタンプ。横浜長者町郵便局の競馬場内臨時出張所において押印された。
図案は、疾走する競走馬と競馬場のスタンドを描いている。文字は、「日本競馬倶楽部競馬會記念 11.5.9 横須賀長者町」である。

横浜開港77年記念スタンプ
横浜市は昭和11年6月1日で開港77年の喜寿を迎えた。これを祝い市内では様々な催しが開催された。
横浜郵便局も小型記念スタンプを作成し、昭和11年6月1日から7日まで、観光展・工業展の会場である商工奨励館内に臨時出張所を設け、スタンプを押印した。
図案は、会場である商工奨励館を中心に、舵輪と黒船を描いたもの。
文字は、「開港七十七年記念 大展覧会 11.6.1 横濱」とある。

簡易保険20周年の記念スタンプ
簡易保険とは大正5年10月1日から当時の逓信省が始めた制度で、昭和11年10月1日で20年を迎える。このことを記念して、横浜市内の郵便局で10月1日から三日間使用された特殊通信スタンプである。
図案は、中央に簡易保険のマークをあしらったもので、文字は、「簡易保険二十周年記念 横濱」とある。

横浜中局の風景印
昭和11年10月17日に長者町郵便局は曙町に移転・開局し、名称を横浜中郵便局と改称した。このため、新たに風景印を作成し同日から使用された。
図案は、中区の名所である掃部山の井伊直助像と吉田橋及び根岸競馬場スタンドをあしらったもので、文字は、「横濱中 11.10.17」とある。

秋季根岸競馬の記念スタンプ
昭和11年10月31日から11月15にかけて日本レース・倶楽部主催の秋季根岸競馬会が開催された。これを記念して横濱中郵便局は競馬場内に記念スタンプ所を新設し押捺させた。
図案は、競走馬が疾走するイラストで、文字は、「日本レースクラブ秋季競馬大會記念 11.10.31 横濱中」とある。

平塚高女創立15周年の記念スタンプ
大正10年4月に開校した神奈川県立平塚高等女学校(現、県立平塚江南高等学校の前身)は、昭和11年に創立15周年を迎え、11月1日には記念の運動会、同月7〜8日には生徒の作品展が開催された。平塚郵便局では、この運動会、展覧会に合わせて記念スタンプを作成した。
図案は、同校の校舎及び校章で、文字は、「平塚高等女学校創立十五周年記念 11.11.1 平塚」とある。

武道館落成の記念スタンプ
御大典記念事業として建設された神奈川県立武道館の落成を記念したスタンプである。落成式は昭和11年11月11日に挙行され、横浜郵便局では、式場内に臨時出張所を設け、11日から13日の間押捺した。
図案は、武道館の外観を描いたもので、文字は、「神奈川縣立武道館落成記念 11.11.11 横濱」とある。

大東亜戦争開戦一周年の記念スタンプ
230億円完遂を目指した必勝貯蓄に向けた記念スタンプ。昭和17年12月から郵便貯金通帳、定額郵便貯金証書、簡易保険と郵便年金の証書に押印された。
図案は、戦力強化と書かれた爆撃機のイラストの周りに、大東亜戦争開戦一周年記念の文字が縁取るもの。つまり、戦力強化のために貯蓄をしてくださいという強力なアピール。

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