美容・衛生・健康の広告

広 告

女性の身嗜みは時代によって変化する。お化粧も同じ。戦争中は物資不足から華美が禁止され質素倹約が求められた。美容とは正反対の方向であるが、さて事業者はどう対応していったのか?
また、健康自体がお国のためということで[「健康報国」なる言葉が産れ、その観点から商機を見出す事業者も出てくるという状況が見えて来る。

花王石鹸の新年広告
現在の花王株式会社は、明治20年長瀬富郎が日本橋馬喰町に「長瀬商店」を開店し、石鹸や文房具などを販売したのが創業であり、大正12年に石鹸の生産を開始、大正14年に「花王石鹸株式会社長瀬商会」設立し現在に至る。
この広告は、年頭挨拶としての広告で、主要なお得意様の名を列挙している。
内容を見ると、大学医学部や病院など保健衛生関係施設のほか、陸海軍の組織が網羅されているところが興味深いし、朝鮮、満州、台湾が日本の領土であったことが実感できる。
また、順不同とは書かれているが、掲載順を見ると一応当時の順列が理解できる。

内容
「謹賀新年 東洋第一 花王石鹸(カオーセッケン)
永年の御用命を感謝し奉る 品質本位

陸軍省殿 海軍省殿 鐵道省殿 逓信省殿
東京帝国大学医学部殿 京都帝国大学医学部殿 東北帝国大学医学部殿 九州帝国大学医学部殿 北海道帝国大学医学部殿 京城帝国大学医学部殿 新潟医科大学殿 岡山医科大学殿 千葉医科大学殿 金沢医科大学殿 長崎医科大学殿 熊本医科大学殿 大阪医科大学殿 名古屋医科大学殿 京都医科大学殿 満州医科大学殿 慶應義塾大学医学部殿 東京慈恵会医科大学殿 日本医科大学殿 東京女子医科専門学校殿
近衛師団各聯大隊殿 第一師団各聯大隊殿 第二師団各連大隊殿 第三師団各連大隊殿 第四師団各連大隊殿 第五師団各連大隊殿 第六師団各連大隊殿 第七師団各聯大隊殿 第八師団各連大隊殿 第九師団各連大隊殿 第十師団各連大隊殿 第十一師団各連大隊殿 第十二師団各連大隊殿 第十四師団各連大隊殿 第十六師団各連大隊殿 第十九師団各連大隊殿 第二十師団各連大隊殿 関東軍各隊殿 台湾軍各聯大隊殿 支那各地駐屯軍各隊殿 南満州独立守備隊殿 全国各衛戍病院殿
陸軍各学校殿 陸軍各工廠殿 陸軍各兵器廠殿 陸軍科学研究所殿 陸軍衛生材料廠殿 陸軍軍馬補充部各支部殿 陸軍被服廠殿 陸軍各偕行社殿
横須賀鎮守府殿 呉鎮守府殿 佐世保鎮守府 舞鶴要港部殿 馬公要港部殿 大湊要港部殿 鎮海要港部殿
第一艦隊殿 第二艦隊殿 練習艦隊殿 支那沿岸警備各艦隊殿 横須賀海兵団殿 呉海兵団殿 佐世保海兵団殿 横須賀海軍病院殿 呉海軍病院殿 佐世保海軍病院殿 海軍各要港部病院殿 海軍各学校殿  海軍各航空隊殿 海軍各工廠殿 海軍造兵廠殿 海軍各水交社殿 海軍各下士官兵集会所殿 海軍各共済組合殿
東京鐵道局殿 名古屋鐵道局殿 大阪鉄道局殿 門司鉄道局殿 仙台鉄道局殿 札幌鉄道局殿 南満州鐵道株式会社殿 朝鮮鐵道局殿
伝染病研究所殿 理化学研究所殿 台湾総督府各医院殿 朝鮮総督府各医院殿 樺太庁各医院殿 各府県立病院殿 全国各地公市立病院殿 日本赤十字社各病院殿 恩賜財団済生会各病院殿 支那各地同仁会各病院殿 東京横浜同愛記念病院殿 財団法人泉橋病院殿 聖路加国際病院殿
各地方専売局殿 日本郵船株式会社殿 大阪商船株式会社殿 日清汽船株式会社殿 北海道炭鉱汽船株式会社殿 八幡製鉄所殿 室蘭製鋼所殿 三井鉱山株式会社各購買殿 三菱鉱業株式会社各購買殿 住友合資会社各工場購買殿 日本鉱業株式会社各購買殿 古川鉱業株式会社各購買殿 全国各紡績工場殿 全国各製紙工場殿 全国各造船所殿 全国各消費組合殿 全国各学校購買部殿(御芳名次第不同)
東京市日本橋区馬喰町 花王石鹸本舗株式会社長瀬商会」
掲載:昭和7年1月5日 

花王石鹸の広告
当時、現在ではあまり馴染のない東洋第一という冠が良く使われた。アジアのトップに君臨しても、まだまだ欧米には太刀打ちできない時代であった。
「一志報國」や「至誠」、「ご奉公」などの言葉に加え、日の丸と衛兵所に衛兵の姿があしらわれる(しかも半景)など、お国のために戦おうという雰囲気を漂わせている。
内容
「東洋第一 花王石鹸
報國の念願 四十余年を一貫して一個の花王石鹸に至誠を打込んで参りました長瀬商会でございます 良く…安く… これがみな様へのご奉公と存じまして、日本で唯一つの原料精製装置から科学的大量生産の作業に至るまで、只管一志報國の念願に他なりません 御愛用を願ひます
純粋度・九九・四% 正価一個十銭」
掲載:昭和7年1月 

ミツワ石鹸の広告
鉄兜を被り、銃剣付きの歩兵銃を手にした兵士に扮した子供が、皮膚を守るという、石鹸を兵士に見立てた、当時ならではの表現である。
万延元年に創業した丸見屋(現ミツワ石鹸(株))が明治43年に販売を開始した石鹸であるが、平成26年12月31日をもって廃業した。 左下部には、奉祝建国祭のマークがつけられている。
内容
「お子様方や御婦人方のミツワ石鹸
お子様達へのお答え 何故ですって?それは、作用がとてもやわらかでお肌を荒らさないからです
御婦人方へのお答え お化粧に…ミツワ石鹸は、肌を整える作用がありますから、従って白粉ノリを良くします  家計簿に…ミツワ石鹸 使用中途の溶崩れずに永保ちします故、御家庭用として経済的です
マモレ!ヒフ   本□東京両国丸見商店
掲載:昭和11年2月 

クラブ化粧品の広告
現在の(株)クラブコスメチックスである。明治36年創業の中村太陽堂が前身であり、明治期からクラブ白粉や美身クリームを販売していた老舗である。 いつでも美しくありたいは今も昔も女性共通の願いであり、非常時、質素倹約を強いられた銃後の生活にも「健康化粧」という、うたい文句で、同社の製品をアピールする手法は、素晴らしい。
内容
「銃後の女性は… 健康化粧
この非常時には、皆様方も一層健康に注意して銃後の護りをかたくして下さい!お化粧も普通の方法とちがって、キリゝとして美しく、その上皮膚を健康にする次の健康化粧をおすゝめします。たった一分間で上品なうす化粧が出来て、しかもホルモンの科学的作用で美しい血色のよい地肌にします。この健康化粧こそ銃後の女性の床しい身だしなみでございます。(クラブビューティハウス発表)
クラブ乳液〜 クラブ美身クリーム〜 クラブはき白粉〜 最後にクラブほゝ紅、まゆ墨、口紅で仕上げを致しますと、地肌から美しくなって、しかも一日崩れない美しい健康化粧ができます。」
掲載:昭和12年10月 

ニビア煉白粉の広告
今に続くニベアクリームの姉妹品である。当時は「ニビア」と発音していたようである。同時期に缶入り・チューブ入りのニビアクリームの広告も出されている。ニベアは明治44年にドイツで発売されたスキンケアクリームであり、すぐに世界展開された。 手間いらずの白粉で、このご時勢に最適という主旨である。
内容
「 ニビア煉白粉
時勢にふさわしく 経済的、能率的なニビア煉白粉
白粉下のいらぬ僅かな量でのり のびよく永持する
定価 一、八〇 〇、九五」
掲載:昭和13年4月 

自の魂(健康器具)の広告
真空管を使って超短波を発生させる装置であり、蓋つきの木箱に入っている。本体から電線で繋がる放射器という電気行火のような部品を患部にあてることで効果を得るもの。宣伝文句にレントゲンより効くとあるが、当時はレントゲンも治療効果があると思われていたらしい。健康報国として健康もお国のためというご時勢であり、ラジオ体操やハイキングなどが奨励された。
内容
「銃後の守り 健康報国
万病克服の実験 自(ミズカラ)の魂(タマシイ) 七日間使用随意返品自由
自の魂 超短波快癒機はどんな病気にもラジウム、レントゲン、より驚く程のききめがあります 健康者も不断に用ゆれば益々丈夫長命になります 百聞一見に如かず、とに角どなたも一度お試し下さい、 実験無料
定価 普及型三十五円 但特売中二十二円
雄工社横浜営業所 自の魂実験所」
掲載:昭和14年7月 

健康報国書方募集の広告
ライオン歯磨本舗が主催し、時局下、学童の健康強化を目的に健康報国に因む書き方を募集したもの。賞が上位から天賞、地賞、人賞というのが興味深い。
内容
「全国学童 健康報国書方募集 紀元二千六百年奉祝
橿原神宮へ書方奉献 永世に遺す健康報国 記念塔も建立!〜
奉献の書方 尋常一年「つよいカラダ」(片仮名) 尋常二年「つよいからだ」(平仮名) 尋常三年(正しくつよく」(楷書) 尋常四年「正しく強く」(楷書) 尋常五年「健康報国」(楷書) 尋常六年(行書) 高等科「興国の日本輝く健康」(行書)〜」
掲載:昭和15年5月 

オゾン美顔術の広告
オゾンの殺菌効果を使った美顔術であるが、質素倹約、贅沢は敵といった戦時下といえども、女性の美への追及は強いことを実感する。
内容
「戦時下です!華美な化粧をしないでください
真から美しい健康美となるオゾン美顔術
お化粧以上の効果です
イセザキ町・有隣堂裏 横浜 壽美容院」
掲載:昭和15年9月 

婚礼支度の広告
新体制に即したということなので、内容は不明であるが通常より簡素なのであろう。 また、注目すべきは「御祝儀全廃」であり、これも結婚式の質素倹約に向けた取り組みの1つなのであろう。
内容
「御婚礼御支度
新体制に即した 御化粧御着付御調髪共一式 金十円 御祝儀全廃
御便利な貸かつら及かもじ花笄、角かくし等取揃えて御座います
衣裳其他御相談に応じます 出張御来店共に承ります
横浜伊勢佐木町 有隣堂裏 壽美容院」
掲載:昭和15年10月 

風鳥メールの広告
ふうちょうとは一般的に極楽鳥のことであるが、イラストはクジャクである。勘違いか。贅沢禁止からお洒落もはばかられるご時世。これを逆手にとった隠し化粧という言葉。憎い広告である。
ホウ酸が入っているようだが現在の化粧品基準では禁止されているようだ。また、ホルモン配合というのも危険な香りがする。なお、宇野達之助商会は、タンゴドーランの会社である。
内容
「おしゃれ厳禁派手禁物 の中年婦人の隠し化粧はメールに限ります ホンノリと上品にツケたとは見えない清楚な色白さ!
風鳥メール ホルモン配合・ホーサン美白クリーム
改正公定価格 大瓶八九セン 小瓶五四セン 株式会社・宇野達之助商会・大阪・東京」
掲載:昭和16年12月 

第一美容院の広告
これは便利、年に二度ですむパーマ。節約が求められるご時世にピッタリ。いやまて、贅沢が敵、パーマ自体が厭われる時代ではなかったか?
内容
「電髪専問 4.00均一
時節柄節約して年に二度ですむ電髪で!セットは御自分で工夫して
市電長者町五下車 横浜第一美容院(世界館前)
掲載:昭和18年8月 

壽美容院の広告
広告常連の壽美容院である。パーマ(電髪)自体が自粛のなかで健全なパーマとはどのようなものか? 経営と自粛の問題は現在の新型コロナと同じである。女性の美容はどんな状況下でも不可欠なものなのであろう。
内容
「健全なパーマと正しい美顔術
壽美容院 伊勢佐木町・有隣堂裏通」
掲載:昭和18年11月 

第一美容院の広告
昨年の8月と同内容だが、電髪からパーマネントに変化している。電気を使わないコールドパーマなら、世間から叩かれないということだろう。
内容
「パーマネント
時節柄節約して年に二度ですむ無電!パーマで……セットは御自分で工夫して 市電長者町五下車 横浜第一美容院(世界館前)」
掲載:昭和19年3月 

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