ライオン歯磨の広告

広 告

洗剤、石鹸、歯磨きなどの大手衛生用品メーカーであるライオンは、明治24年に小林富次郎商店が創業であり、明治29年に「獅子印ライオン歯磨」という粉歯磨きを発売。その後、石鹸などを手掛け、大正7年に「株式会社小林商店」を設立、これがライオンの設立年である。昭和24年に「ライオン歯磨株式会社」に社名変更、昭和55年に「ライオン株式会社」が発足、現在に至っている。 コピーの変遷を見ると、製品の経済性を生かして、当時の世相に上手く合せていったことが分かる。

厚い外套を着た兵士が歯磨を抱えているが、外国の兵士のような佇まいである。鉄兜には見慣れぬ色塗りがされている。 時節柄満州国の国旗をイメージしているのだろうか。このコピー、既に虫歯が社会問題化していたのであろう。
内容
「ライオン歯磨 -子供さんに 寝る前にも-
防げムシ歯をそら磨け。ライオン歯磨こゝに在り!
ライオン歯磨本舗 株式会社小林商店 東京・大阪・名古屋」
掲載:昭和8年2月 

日章旗と旭日旗をあしらっているのは日本軍を表していると思われるが、これからだんだん増加してくるデザインである。また、非常時の御時世、挙国一致という言葉も良く使われるようになる。
内容
「挙国一致でムシ歯を防ぎましょう! 国産歯磨の第一人者  ライオン歯磨」
掲載:昭和12年11月 

歯を磨くことが生産力の拡充へつながるという、無理やりの論理展開である。当時、なんでも報国につなげた現象があったが、中には商売っ気を感じるものもいくつかあります。
内容
「ライオン歯磨
生産力(せいさんりょく)の拡充(かくじゅう)へ ライオン歯磨で 磨いた歯と歯茎で!
口内の細菌を□□除去する効果、□□爽かな使用感、ライオン歯磨に優るものありや?」
掲載:昭和14年8月 

宣伝文句にますます磨きがかかっている。金属節約の折柄、紙製の容器であることを強調している。 この時代、美辞麗句を並びたてることが一般的であった。
内容
「ライオン歯磨
時代の要求にピッタリ副って  発売忽々お蔭を以って大好評!
容器は…国策に沿えるカートン製。意匠斬新、其美麗にして典雅なる事、日用品として其比を見ず。内容は…独特の製法による「粉の飛び散らぬ馴水性粉歯磨」国産香料の粋を蒐めて香気馥郁。ムシ歯及び歯槽膿漏の予防に極めて有効適切。容量は…豊富にして頗る経済的。〜」
掲載:昭和15年3月 

時局の要求というコピーであるが、その内容は、現在にも通じるものがある。
内容
「ライオン歯磨  時が要求する技術を最高度に活用せる……
ライオン煉歯磨チューブ入りは、御愛用者各位のご要望に副ひ― ◇其香味の清楚にして優雅なる点 ◇其吸着清掃力の迅速にして的確なる点 ◇其使用感の爽快にして、清涼なる点 ◇其携帯の至便にして実用的なる点……に於て 実に圧倒的の御好評を博して居ります。」
掲載:昭和15年7月 

粉と煉のセット広告であるが、表現内容について、更に訴求力を増している。
内容
「ライオン歯磨  時局が要求する技術を最高度に活用して……
チューブ入歯磨の優秀性を確保せるライオン煉歯磨は、 ◇其香味の清楚にして優雅なる点 ◇其口中の細菌に対する□□滅□力の迅速にして的確なる点 ◇其使用感の爽快にして、清涼なる点 ◇其携帯の至便にして実用的なる点……に於て 正に時代の躍進児!
戦時経済的な粉歯磨 内容は 歯刷子にしっとりと、よく用く… 粉の飛ばぬ□水性粉歯磨。容器は 特に防湿のカートン(紙器)を用い、缶入と些かの遜色もなく、然も其意匠は優美にして典雅。
ライオン歯磨本舗」
掲載:昭和15年7月 

「戦時生活の刷新」というコピーによって、歯磨きの使用と新体制への移行を上手く結びつけている。
内容
「ライオン使って戦時生活の刷新へ!
ライオン歯磨は、ムシ歯及び歯槽膿漏の原因たる歯垢及び細菌に対する吸着滅菌力が迅速で然も確実ですから、一回の使用量が少量でも効果は顕著です。時局向歯磨として各方面の絶賛を博している所以であります。」
掲載:昭和15年10月 

これは、今に通じる「勿体ない」を使った広告。
内容
「物を粗末にしては勿体ない  歯も同様です
どんなに丈夫な歯でも、掃除が行届かず、栄養が不足では、きっと悪くなります。 歯は清掃力の強いライオン歯磨で丁寧に掃除しましょう。歯の間に溜まった食片や細菌は ライオン歯磨の薬効と吸着力で除去されます。〜」
掲載:昭和15年11月 

「翼賛一家へ」というコピーが時代を象徴している。波線模様は歯ブラシを表している。
内容
「ライオン歯磨
翼賛一家へ
  口腔の全機能を強化する・・・・ライオン歯磨の常用は身体の鍛錬と相まって、体位向上の基礎的条件となっています。
ライオン歯磨本舗」
掲載:昭和16年1月 

国策容器を「うつくしいがらすびん」とルビを振っているが、金属節約の時世、缶入りは国策に反する、よってガラス製の容器として、資源の節約に協力をしているということをアピールしている。
内容
「ライオン歯磨
  翼賛一家へ    国策容器(うつくしいがらすびん)の潤製歯磨を!
■潤製歯磨の特長(粉が飛ばぬ、香が抜けぬ、味が変わらぬを其儘完全に保っている。
■容量は従来の缶入の三倍も入っている。
■容器は見るから感じのよい紫水晶色の硝子壜。」
掲載:昭和16年2月 

翼賛体制を利用した広告。つまり、あらゆる観点からライオン歯磨きこそが国民の歯磨であることを懇切丁寧に高尚な筆致で証明している。
内容
「既に国民服の制定あり、国民食も又決定す。豈、国民歯磨なからむや。
 国民歯磨としてのライオン歯磨
国民歯磨を『国民の健康生活に必要にして、科学的にも、実用的にも、経済的にも最も適正なる歯磨』と定義づけるとき、ライオン歯磨は正しく国民歯磨なりと断言し得る訳であります。 何故なら、ライオン歯磨の基礎剤に於ける優秀性と歯牙に適合せる其硬度、香味。又防腐・殺菌剤に於ける刺激度、奏効度等は予防歯科学を中心とする汎ゆる科学上、最高標準品として斯界に確認され、本邦最古の歴史と最新の製造技術を有し、国民健康生活必需品として、将又良心的歯磨として社会の要望に全く合致している事、而してその経済上最高の価値を発揮する点に於て、歯磨界絶対多数の愛用者を有する一事によっても明かであります。ライオン歯磨」
掲載:昭和16年3月 

歯を強くすることが、皇国の力につながるという強引な広告。
内容
「身体の力は皇国の力  皆さんの一人々々が強くなれば、それだけ皇国の力が増すのです  早寝早起きの翼賛一家
歯が強くなれば体も強くなる!ライオン歯磨で毎日朝晩口中を清掃して、歯の健康に努めましょう。」
掲載:昭和16年4月 

時期的に新入学の子どもたちを対象とした広告。皇国の文字が盛んに用いられているが、いよいよ忠君愛国思想が徹底されてきたのであろう。
内容
「薬用潤製 ライオン歯磨   
国民学校新入学のご家庭へ 健康の錬成へご協力を
国民学校では学童の体位向上の為に、毎週凡そ三時間衛生訓練や共同作業等に充てられています。 これは身体の修練が皇国民としての基礎的な錬成であるからであります。 然しながら健康の指導は特にご家庭の御協力を待たなければ確実な成果は得られませんから、保護者の方々は学校と緊密な連絡をおとりになって、お子様の健康増進に最も関係の深い歯の衛生に対しても充分御注意なさいますよう切望致します。
国民学校初等科一年教科書(ヨイコドモ)の中の挿絵
売薬部外品 公定価格品
 ライオン歯磨本舗」
掲載:昭和16年4月 

歯磨に対しても、お国へ御奉公の決まり文句が使われるようになった。因みに、昭和3年から13年までは、ムシに因んで6月4日が「虫歯予防デー」であったが、何故か、昭和14年から昭和16年までは、「護歯日」として5月4日が虫歯予防デーであった。
内容
「良い歯で よく噛みましょう
感謝の心でよく噛んで節米に協力する―是もお国へ捧げる御奉公!
薬用ライオン煉歯磨は其薬効と吸着作用により、口腔内に発生する腐敗発酵物、有害細菌等を吸着殺菌して〜
厚生省提唱健康増進運動 五月四日ムシ歯予防デー」
掲載:昭和16年5月

時間節約、日本人向き、経済的の三点が時局向きという論理構成でアピールしている。
内容
「確かな効果  ライオン歯磨は三十秒で口内にある細菌や歯垢を除去し、ムシ歯の原因を除く。
香味と感触  絶えざる新研究に依って粒子が細かく、ザラつかず、香味は温雅清涼にして日本人向。
家庭経済に  少しの量で歯の汚れがよくとれる。容量はたっぷり。
三拍子揃って これこそ理想的時局向き歯磨!  公定価格品
掲載:昭和16年9月

歯磨で気分一新して、颯爽と出勤という、わからなくもない広告。「薔薇系、柑橘系の高貴な香味」は今でも魅力的な表現である。
内容
「颯爽と職場へ
食物の残滓や、歯垢を除去して、気分を一新、一日の勤労へ。
それには歯の清掃、マッサージに好適のライオン歯磨を御使用なさることです。ライオン歯磨は、精選された諸原料に薔薇系、柑橘系の高貴な香味が加えてあるので、爽快感を倍加します。
ライオン歯磨 薬用潤製 薬用煉製 薬用粉製 ライオン歯磨本舗  売薬部外品 公定価格品
掲載:昭和16年11月

戦時下の歯磨とは?効能と経済性であるが、他社製品との差別化は難しいのではないか。
内容
「戦時下の歯磨として
特に 現下の国民生活に即応せる点に於て御家庭の好評を博して居ります〇容器は…紫水晶色の感じの良い硝子壜〇内容は…独特の製法によって適度の潤いを保つ薬用潤製歯磨〜」
掲載:昭和16年12月

新年の年賀広告である。「鉄石(てっせき)」とは、聞きなれない言葉であるが、名の通り鉄と石、非常に堅固なものの例えであり、当時は精神論によく使われた。
内容
「鉄石の
団結のもと、一億総進軍の新春を迎え諸賢の御健勝を切に祈上げます 
昭和十七年元旦
噛む力を強くする… 潤製・煉製・粉製 ライオン歯磨 売薬部外品 公定価格品」
掲載:昭和17年1月

戦争をイメージさせることのない通常の広告である。しかし、この頃、既に寝る前の歯磨励行が存在したのである。
内容
「寝る前に歯を磨かないで、気持が悪くありませんか?
バイキンは夜中に繁殖(ふえ)て、歯を冒し口を汚します。朝気分のすぐれぬことのないように夜ねる前の歯きを励行しましょう。 歯刷子もライオンが理想的
ライオン歯磨  ライオン歯磨本舗」
掲載:昭和17年4月

単純な歯磨の広告である、「東亜の民」とは、いわゆる東アジア全体を指し、日本盟主とした東アジア全体の共栄圏の建設がこの戦争の大義名分であった。その意味で、この広告も献納広告の範疇に含めることができる。
内容
「東亜の民に健康を
ライオン歯磨  健康を護り育てる代表歯磨
掲載:昭和17年12月

歯を磨くことがお国の為になることをイラストと簡潔な文章で、明確に伝えている。世相を利用した広告で 歯力⇒体力⇒戦力の三段論法は説得力がある。この手の広告は仁丹が代表であるが、多かれ少なかれどこの商品も、効能をお国の為に結びつけることが必須な時代であった。
内容
「歯力 子供の時から歯を大切に!
体力 ムシ歯無くして能率増進!
戦力 強い体でお国に御奉公!
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年2月

ライオン歯磨の翌日の広告。前日の三段論法をまとめて短くしたもの。イラストも使い廻し。まとめたのは、体力と戦力。当然、歯磨の部分は、まとめるわけにはいかない。
内容
「ムシ歯を無くして能率増進
丈夫な体で御国に奉公
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年2月

ライオン歯磨の翌月の広告。イラストは使い廻しで、前月のレイアウトを少しいじっただけの手抜き?広告。ここ数か月を並べてみると一目瞭然である。
内容
「ムシ歯を無くして能率増進
丈夫な体で御国に奉公
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年3月

ライオン歯磨の販売の理屈は、虫歯をなくして健康に、健康な体がお国に御奉公できる。ここまでは納得。しかし、戦争に勝つためにはよく噛むこと、よく噛むためには歯磨を とは拡大解釈にもほどがあると思うのだが。
内容
「勝つためによく噛もう・・・
強い歯で食物を無駄なく栄養化
ライオン歯磨(歯質を傷めぬ優良品)」
掲載:昭和18年6月

括弧内の中央協力会議とは、大政翼賛会(内閣総理大臣が総裁)における「下情上通」のための機関として中央本部に付置するかたちで設置された。中央本部同様、協力会議も地方に道府県・郡・市町村協力会議を置いた。字がつぶれて判然としないが、『完全咀嚼』が中央協力会議の提唱と書いてあるものと思われる。
また、効果の一つに『節米』にとあるが、完全咀嚼すると無駄なく栄養を吸収できるので、米の量が少なくて済むということであろうか。
内容
「健康と節米に 完全咀嚼(中央協力会議□□)
良く噛む良い歯を良い歯磨で護りましょう。
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年8月

小型の広告で、内容もシンプルである。これまで、御国のためになることを無理筋に言いまわしてきたが、突き詰めるとこうなるという見本。
内容
「戦力鈍らすムシ歯を防ごう
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年9月

引き続き小型の広告であるが実はエルビオゲンとのセット広告である。内容は、いつものように歯磨が生産増強、能率アップにつながるという理屈である。
内容
「ムシ歯予防に ライオン歯磨 ムシ歯無く能率増進
ライオン歯磨」
掲載:昭和18年9月

虫歯予防のことには触れずに、シンプルに「決戦下に粉歯磨を」とのみである。歯磨きは最近液体が主流になってきているが、元は粉から出発している。この頃も主流は粉歯磨であった。現在、練り歯磨きでも歯磨き粉と言ってしまうのはその名残である。
内容
「決戦下は粉歯磨を
一、粒子細かく 一、琺瑯質を傷めず 一、香味佳快 ライオン歯磨」
掲載:昭和18年11月

決戦下の創意とはよくわからないが、前回に続き粉歯磨を打ち出しているので、これが創意なのであろう。練り歯磨きと比べて何が決戦下に相応しいのか。たぶん、容器に金属を使わないからなのだろう。3月も全く同じ広告を出している。
内容
「良い歯磨で歯を護れ!
五十年の歴史と研究に決戦下の創意を加えた第一級粉歯磨 ライオン歯磨」
掲載:昭和19年2月

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